「生成AIで特許明細書が作れる」――本当にそれだけで大丈夫でしょうか?

~「文章を作ること」と「特許明細書を作ること」は同じではありません~

生成AIの進歩には、目を見張るものがあります。

発明者が作成した、少々まとまりのない原稿でも、文章を整理し、読みやすい日本語にまとめてくれる。便利ですね

「これなら、特許明細書もAIで作れるのではないか?」

そう考えるのも、無理はありません。

実際、AIを利用して特許明細書に近い文章を作成することは、技術的には難しいことではなくなりつつあります。

しかし、ここで一度立ち止まって考える必要があります。

「文章を作ること」と「特許明細書を作ること」は、本当に同じでしょうか。

「それらしい文章」ができることと、「適切な明細書」ができることは違います

生成AIは、文章を整えることについて非常に優れています。

しかし、元となる発明者の原稿が不明瞭だった場合、AIがその意味を「推測して」文章を整えてしまうことがあります。

文章としては、非常にきれいです。

ところが、その文章が発明者の本来の意図と完全に一致しているとは限りません。

特許明細書では、この違いが大きな問題になることがあります。

例えば、日本語明細書を元に英文明細書を作成した場合を考えます。

「A and B of C」

という英文がある場合、「of C」がどこに係るのかによって、技術的な意味が変わります。

日本語の段階で意味が明確になっていなければ、英語にした段階で、さらに不明瞭になってしまいます。

一般的な文書なら、「だいたい意味が通じればよい」場合もあります。

しかし、特許明細書ではそうはいきません。

一つの言葉、一つの構成、一つの関係が、将来の権利解釈に関係する可能性があるからです。

「上位概念にすれば、より強い発明になる」?

日本語明細書、英文明細書を作成する際は、ここにも注意が必要です。

例えば、発明者が「コップ」と書いていたものを、「容器」という、より広い概念に置き換えて使う場合を考えます。

確かに、「容器」の方が広い概念です。

しかし、「容器」にはコップだけでなく、浴槽など、発明者が全く想定していなかったものまで含まれます。

つまり、

「用語を上位概念」すれば、「より強い発明になる」とは限らず、常に「特許として適切な表現か否か」を考える必要があります。

用語を上位概念の言葉に置き換えた結果、思いもよらない対象まで含むことになり、想定外の拒絶理由につながる可能性もあります。

もう一つ、見落としてはいけないこと

最近では、特許情報を大量に扱うことも容易になりました。

過去の特許明細書を検索し、類似する技術を調べ、そこから表現や構成を参考にすることもできます。

これ自体は、特許実務において非常に有用なことです。

しかし、

「過去の明細書に似た文章が作れる」ことと、「その発明について適切な明細書を作れる」ことは別の問題です。

過去の特許明細書には、その発明について、発明者と弁理士等が検討し、権利化を目指して作り上げた背景があります。

そこから得られた文章を、別の発明に当てはめれば、それで適切な明細書になるとは限りません。

むしろ、似ているからこそ、「どこが同じ」で、「どこが違う」のかを慎重に見極める必要があります。

「特許事務所に依頼する意味」は、文章作成だけでしょうか?

ここで、特許事務所の仕事についても考えてみたいと思います。

特許事務所に依頼すると、当然、費用が発生します。

そのため、

「AIを使えば安くできるのではないか」

「自社で明細書を作れば、もっと安くできるのではないか」

と考える企業が出てくるのも、自然な流れかもしれません。

しかし、特許事務所に依頼する価値は、文字を並べて文章を作ることだけではありません。

発明者の説明を聞き、

  • 何が本当の発明なのか
  • どこに技術的な特徴があるのか
  • どこまでを権利として考えるのか
  • どの表現なら意図した意味を維持できるのか
  • 将来、権利のライセンス、権利行使を考えたときに問題が生じないか

などを考えながら、明細書として形にしていく。

そこには、単なる文章作成とは異なる、特許実務としての判断があります。

AIを否定しているわけではありません

ここは誤解していただきたくないところです。

私自身、生成AIを否定しているわけではありません。

むしろ、適切に利用すれば、特許実務を大きく効率化できる非常に有用な道具だと考えています。

問題は、

AIが作った文章を「完成品」と考えてしまうこと

ではないでしょうか。

AIは、特許実務を支援する強力な道具になり得ます。

しかし、最終的に必要なのは、

「文章として整っているか」ではなく、「特許明細書として適切か」

という確認です。

大森特許事務所では、こうした環境の変化を踏まえ、生成AIなどの新しい技術を活用しながらも、日本語の意味内容を確認し、その内容に基づいて明細書を完成させることを重視しています。

さらに、英文明細書についても、日本語で意図した内容との間に意味のずれが生じていないかを確認することが重要だと考えています。

明細書のページ数が増えれば、確認すべき文章も増えます。

そこで当事務所では、こうした確認を効率的かつ確実に行うための体制も整えています。

ただし、その具体的な方法については、ここではあえて詳しく説明しません。

大切なのは、「最終的にどのような品質の明細書を作るのか」だからです。


「安く作る」ことだけが、特許出願の目的ではありません

特許出願は、単に書類を提出するための手続きではありません。

将来の事業を守るための権利を作るためのものです。

だからこそ、

「いくらで明細書を作れるか」

だけではなく、

「その明細書によって、どのような権利を得ようとしているのか」

という視点も大切ではないでしょうか。

生成AIを利用する時代だからこそ、私たちは改めて、

「特許明細書とは何のために作るものなのか」

を考える必要があるのではないかと思います。

大森特許事務所は、AIなどの新しい技術を活用しながら、発明を適切に権利へつなげるための特許実務を提供していきます。

以上